ソーシャルビジネスケース集

テクノロジーを活用し、
世界中の人へ働く機会と豊かさを提供する

オングリットホールディングス株式会社

図1 YYコンテスト2018の授賞式の様子

オングリットホールディングス株式会社1(以降、オングリットホールディングスと記載)は、橋梁やトンネル、道路照明などの構造物の点検調査、点検時に使用するAI・ロボットの開発、点検業務を受託して主に就職弱者に対してアウトソーシングする3つの事業を柱とする企業である。同社は、2018年2月に、「福岡よかとこビジネスコンテスト」2のファイナリストに認定された後の同年3月に、福岡市のスタートアップ支援施設Fukuoka Growth Nextのコワーキングスペースで創業した。同年10月には、ムハマド・ユヌス博士が提唱するソーシャル・ビジネスの具現化を目指す「YYコンテスト((Yunus and You Social Business Design Contest) 3」に出場し、グランドチャンピオンに選出された。加えて、サンパワー賞をダブル受賞した同社は、世界最大のソーシャルビジネスプラットフォームである「GLOBAL SOCIAL BUSINESS SUMMIT 2018」に、日本代表として登壇した実績を持つ。その後も、数々のコンテストで受賞を重ねている。
設立時は3名でスタートしたオングリットホールディングスは、2022年11月末時点で社員44名の規模にまで成長している。福岡から全国へ事業を拡大する中、2022年3月には経済産業省が推進する「J・Startup KYUSHU」企業33社に選出されるなど、九州発で活躍するスタートアップとして期待を集めており、世界を視野に更なる飛躍を目指している。
「テクノロジーを活用し、世界中の人へ働く機会と豊かさを提供する」ことを企業理念に掲げるオングリットホールディングスの姿勢は、「マルッと図面化®」という自社開発のシステムに象徴されている。同システムは、人工知能(AI)による画像認識を活用した独自のCAD4システムであり、写真を指でなぞるだけでCAD図面を作成できる(資料2)。このシステムを活用することで、建設業やITなどの専門的な知識がない人でも、構造物の点検業務に携わることが可能になる。また、同システムは、自宅や遠隔地でも作業できる仕組みである。そのため、子育て中の女性やシングルマザー、障がい者など、就労において社会的に弱い立場にある人々も、点検業務に従事しやすいことから、新たな雇用創出につながっている。
後述するように、日本では、社会インフラの老朽化が深刻化している。高度経済成長期の前後に整備された道路やトンネル等が、老朽化により損傷が増え、大きな事故につながる事例も少なくない。しかし、社会インフラの点検需要が高まる一方で、点検を担う人材は不足している。このような背景の中、オングリットホールディングスは、テクノロジーを活用することで、建設業界が抱える慢性的な人手不足の解消に貢献している。

1 代表者:森川春菜、本社:福岡県福岡市博多区
2 福岡県と福岡県ベンチャービジネス支援協議会が主催するビジネスプランコンテスト。
3 九州大学ユヌス&椎木ソーシャル・ビジネス研究センターが主催するコンテスト。若者による革新的なソーシャル・ビジネスの創出を目的とし、自立的・持続的に社会的課題を解決するビジネスを創出している。メンター伴走型の丁寧な取り組みと、充実したワークショップが特徴。ムハマド・ユヌス博士は、グラミン銀行の創設者で、2006年にノーベル平和賞を受賞している。
4 Computer Aided Designの略。自動車や住宅、建築、服飾などの設計や製図を支援するシステム。

このケースは、株式会社ケース・ラーニングが、九州地域ソーシャルビジネス・コンソーシアムの監修のもと作成した。ケースの記述は、経営管理上の問題点を例示するものではない。本ケースの作成にあたっては、オングリットホールディングス株式会社の森川春菜社長はじめ、社内外の方々にご協力いただいたことに感謝したい。